経費を増やせばいいのか?【不動産オーナーが知っておくべき節税策ベスト100選】

個人経営を前提としますと、不動産所得から差し引かれる経費を正しく計上することが節税をもたらすことになります。一般的に、「経費が使える」ということです。必要経費を計上することは、所得税の節税をもたらします。
不動産管理会社に支払う管理費用、建物の減価償却費、借入金の支払利息は、必要経費として明確なものです。疑いの余地はありません。しかし、必要経費になるか否か悩ましい費用があります。なぜなら、個人経営を行う不動産オーナーは、不動産経営のための支出と、日常生活のための支出を同じ財布を行っているからです。当然ながら、日常生活のための支出は必要経費とすることはできません。
そこで、不動産オーナーが行った支出のどこまでが必要経費に入るか、ここで知っておきましょう。

支出項目ごとの取り扱い

研修費

筆者も講師を承ることが多い「大家さん向けセミナー」「不動産経営セミナー」の受講料は、必要経費となります。また、セミナー終了後に開催される懇親会への参加費も、必要経費(交際費)となります。さらに、セミナーを受講するために必要な交通費や宿泊費も必要経費(旅費交通費)となります。そして、不動産投資に係る専門書籍を購入したときは、それも必要経費となります。
しかし、不動産だといっても宅地建物取引しの資格取得のための受験講座の受講料は、不動産経営に関係するものではありませんから、必要経費とすることはできません。
なお、単なる自己満足だけで役に立たないセミナーを受講しても、将来の収益獲得に貢献しないため、意味のない無駄な経費となります。

交際費

食事代については悩ましいものです。購入しようか悩んでいる物件を見に行ったときに外食した食事代については、誰と一緒に食べたかによって必要経費になるか否かが決まります。自分1人で食べたり、家族や友人と一緒に食べたりしたときは必要経費とすることはできません。しかし、不動産管理会社の営業担当者と一緒に食べたときには、居酒屋で飲んでも、キャバクラで遊んでも必要経費(交際費)となります。それゆえ、飲食費の領収書には誰と一緒に食べたのか記録しておかなければいけません。

旅費交通費

自分が所有する物件を見に行ったり、購入しようか迷っている物件を見に行ったりするときの交通費や宿泊費は、必要経費とすることができます。交通費は、電車賃、バス代、タクシー代だけでなく、ガソリン代、駐車場代、高速利用料も含みます。
ただし、遠出するような場合、遊びに行ったのかのか明確に区別できないケースが多いため、当日に視察した物件の写真を撮影しておくなど、不動産経営のための経費である証拠を残しておく必要があります。

自動車に関する費用

不動産経営のために自己所有の自動車を使用する場合、ガソリン代、駐車場代、高速利用料は当然のこと、洗車代、自動車税、自動車保険料、修理代、車検費用まで幅広く必要経費とすることができます。
ただし、自動車をプライベートで使用することもあるでしょうから、不動産経営のために使用した費用とプライベートで使用した費用は、合理的な基準で按分しなければなりません。

事務所に関する費用

自宅を不動産経営のための事務所として使用している場合、プライベートな居住部分と事務所部分に分けて費用を計上することになります。たとえば、(賃借している場合の)家賃、水道光熱費、電話代、インターネットの通信費用などです。これらは、不動産経営のために使用した費用とプライベートで使用した費用に、合理的な基準で按分しなければなりません。按分基準について、特に決まったものはありませんが、面積按分などを行うこととなるでしょう。それゆえ、自宅の中でパーティションで区切った事務スペースを設け、客観的に面積を測定できる状態にしておかなければいけません。パーティションを設けるなど邪魔だ!とおっしゃるかもしれませんが、邪魔だということは、換言すれば、不動産経営の事務作業を行うために必要としている証拠となります。

従業員と一緒に行く慰安旅行

「家族と一緒に行った旅行の費用を何とか経費に入れたい。」というご要望を聞くことがよくあります。この点、厳しい要件が2つあるのです。一つは、旅行が4泊5日以内であること。それを超えると必要経費には入りません。もう一つは、参加者が職場全体の従業員の人数の50%超であることです。
ここで、「うちの従業員は全員家族だ」、「家族全員連れて旅行に行ったぞ」とする不動産オーナーが多いと思います。しかし、個人経営の場合、青色事業専従者である家族と一緒に慰安旅行に行っても、その費用は必要経費とすることができません。従業員は、「親族外」であることが必要なのです。親族外の従業員に家族が混ざっているのであれば、必要経費とすることができるでしょう。

青色申告

これは節税策というよりも、制度上の特典を使うかどうかという話です。事業的規模で不動産経営を行っている場合(5棟10室以上)、複式簿記で貴重し、損益計算書だけでなく貸借対照表も作成して確定申告に添付することによって、65万円を所得控除を行うことができます。
同様に事業的規模であれば、家族に対して青色事業専従者給与を支払うことができ、それを必要経費とすることができます。たとえば、不動産所得2,000万円の不動産オーナーが年間約700万円の所得税等を負担していたとしましょう。ここで、奥様に青色事業専従者給与を600万円支払うとすれば、奥様は年間約80万円の所得税等を負担することになりますが、ご主人の不動産所得が1,400万円に減少することで、所得税等の負担が年間約450万円になります。したがって、税金をトータルで見ますと、約▲170万円の減少となります(=450万円+80万円-700万円)。生計同一の夫婦であれば、どちらが所得を稼いでも実態は変わりません。青色事業専従者給与によって節税することができます。

建物の修繕、設備の取得、開業時の経費

建物の修繕

建物の修繕のための支出は、一事業年度の必要経費となる修繕費と、複数の事業年度の必要経費として配分される資本的支出に区別されます。これらの区別が非常に悩ましいところです。
修繕費とは、建物や設備の修理などに行った支出のうち、資産の維持管理のためのもの、価値が毀損した部分の原状回復を行うためのものをいいます。たとえば、壁紙の張替えや畳の取替えです。これらは、その全額を一事業年度の必要経費とすることができます。
これに対して、資本的支出とは、建物や設備の修理などに行った支出のうち、資産の価値を高めるためのもの、耐用年数を長くするためのものをいいます。たとえば、大掛かりな改装工事(リノベーション)です。これらは、資産として計上し、減価償却を行うことによって、必要経費を複数年度に配分することになります。
資本的支出の減価償却ですが、支出の対象となった資産本体と同じ耐用年数を適用することになります。たとえば、耐用年数が47年で、築20年の鉄筋コンクリートの建物を対象として資本的支出を行った場合、減価償却の期間は27年(=47年-20年)ではなく47年です。それゆえ、大きな支出に対して必要経費がとても小さいため、資金繰りを悪化させます。
以上から、資本的支出は可能な限り減らして修繕費に計上したいと考えることになります。この点、判定が難しいため、実務上は「形式基準」(所得税基本通達37-12、13)によって判定することになります。
この基準によれば、仮に資本的支出に該当したとしても、20万円未満の場合は、すべて修繕費とすることができます(分割払いを行って、その1回の支払いが20万円未満に抑えても、認められません。)。
また、概ね3年以内の周期で修理や改良が行われているものは、すべて修繕費となります。前回の修繕費の記録を残しておく必要があるでしょう。
さらに、資本的支出か修繕費か区別できないものであっても、60万円未満の支出、その固定資産の取得価額の10%以下の支出については、すべて修繕費となります。
そして、特例として、継続適用することを条件として、支出額の30%か、取得価額の10%のいずれか小さい金額を修繕費とし、残額を資本的支出とすることも認められます。

設備の取得

エアコンや給湯器などの設備を新しいものに取り替える場合、これは修繕ではなく、資産の取得となります。すなわち、資産計上したうえで、減価償却を通じて必要経費を期間配分することとなります。
ただし、1個10万円未満の設備は一括で必要経費とすることができます。また、青色申告の方に限り、1個30万円未満の設備は、総額300万円を上限として、一括で必要経費とすることができます。

不動産経営を開始するときの必要経費

サラリーマンの方など、まさにこれから不動産経営を始められる方は、どの段階から必要経費を計上することができるのか、気になることでしょう。
実は、不動産経営は、物件を購入する前から始まっているのです。物件を購入する前に、「不動産投資セミナー」を受講したり、不動産投資の専門書を買って読んだりする人がいるはずです。また、購入しようか検討している物件を北海道まで視察に行くこともあります。さらに、不動産仲介業者との食事代はもちろん、自宅を事務所として使った場合には、光熱費、通信費なども必要経費とすることができます(プライベートな費用と按分します。)。
これらの支出は、実際に不動産オーナーになっていない段階であっても、必要経費とすることができます。ただし、いったん「開業費」として資産計上し、不動産経営がスタートした後にその償却によって必要経費に配分することとなります。
これを知らずに領収書を捨ててしまい、経費に入れない方が数多くおられますが、本当にもったいない話です。これから始まる不動産経営のために、領収書をきちんと保管しておくことです。

著者紹介

岸田 康雄 (きしだ やすお)

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社 代表取締役
公認会計士、税理士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)

一橋大学大学院商学研究科修了(経営学および会計学専攻)。 中央青山監査法人(PwC)にて事業会社、都市銀行、投資信託等の会計監査および財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券、SMBC日興証券、みずほ証券に在籍し、中小企業経営者の相続対策から大企業のM&Aまで幅広い組織再編と事業承継をアドバイスした。 現在、相続税申告を中心とする税理士業務、富裕層に対する相続コンサルティング業務、中小企業経営者に対する事業承継コンサルティング業務を行っている。 日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。中小企業庁「事業承継ガイドライン」改訂小委員会委員。

著書には、「プライベート・バンキングの基本技術」(清文社)「信託&一般社団法人を活用した相続対策ガイド」(中央経済社)「資産タイプ別相続生前対策完全ガイド」(中央経済社)「事業承継・相続における生命保険活用ガイド」(清文社)「税理士・会計事務所のためのM&Aアドバイザリーガイド」(中央経済社)、「証券投資信託の開示実務」(中央経済社)などがある。