騙されて土地を売ってしまった!取り戻せるか?【不動産売買に係る法律を知っておこう!】

今回始まるシリーズでは、不動産取引に係る法律について説明させていただくことになりました。最も基本となるのは民法ですから(特に「契約」。)、民法を中心に、丁寧に、わかりやすく解説させていただくことにします。民法でカバーされていないものについては、借地借家法、建物の区分所有等に関する法律などで補うことになります。
本シリーズを全て読んでいただいたならば、不動産売買で怖いものはありません!不動産仲介業者と対等に話しをすることができるようになるでしょう。

民法と不動産売買の関係

不動産売買される方でもほとんどの方は、民法を知らないでしょう。また、知らなくても困らないはずです。しかし、土地や建物の権利という大きな財産を売買する際の取り決めに係る法律です。これを無視するわけにはいけません。民法の重要な取扱いを知らなかったがゆえに、後で取り返しがつかない失敗をして大金を失ってしまうことがあります。民法はぜひ理解しておきましょう。
不動産売買の際の取り決めを「契約」といいますが、契約を締結するにあたって、相手方に騙されたり脅されたりすることがあります。このような場合、自分の意思で契約を締結したとはいえません。そのような場合、意思表示に欠陥があるものとして、その契約の有効性が問われることとなります。
そもそも契約とは当事者間の合意であることから、それが有効となるためには、完全な意思表示が必要です。この完全な意思表示とは、自由な意思に基づいた真意と一致する意思表示です。この点、真意と表示が食い違っている場合や、自由な意思に基づいたものではない意思表示は、無効となる場合や、いったん有効となってもそれを取り消すことができる場合があります。

意思が不存在となる心裡留保、虚偽表示、錯誤の場合

意思が不存在、すなわち、真意と表示が食い違っている場合として、心裡留保、虚偽表示、錯誤があります。

意思が不存在(表示と食い違っている)
心裡留保 当事者の一方が、わざと真意と異なる意思表示を行ったとき。

(例)土地を売るつもりではないにもかかわらず、冗談で土地の売買契約を締結したとき。

原則として有効。

相手が悪意・有過失ならば無効。

虚偽表示 2人の当事者が通謀して、真意と異なる意思表示をしたとき。

(例)債権者からの差し押さえから逃れるため、知人と相談して、知人に土地を売ったとする架空の契約書を作成し、所有権移転登記を行ったとき。

無効。

善意の第三者に対して無効主張できない。

錯誤 意思表示した者の意思と表示に食い違いがあり、それを知らずに意思表示をしたとき。

(例)土地を「100,000,000円」で売るつもりだったが、ついうっかり間違えて、「10,000,000円」と書いた契約書に調印してしまったとき。

原則として無効。

売主に重大な過失があれば無効主張はできない。

たとえば、土地を売るつもりではないにもかかわらず、冗談で土地の売買契約を締結したとき、原則として有効です。しかし、相手方が冗談であることを知っていた場合、または、注意すれば冗談であることを知ることができた場合(有過失)は、無効となります。
また、2人の当事者が通謀して、真意とは異なる意思表示を行って土地の売買を行った場合、当事者間では無効となりますが、土地を転売して善意の第三者に売却したとき、その善意の第三者に対して無効を主張することができません。これは、悪巧みをした2人の当事者を保護する必要がないからです。

さらに、土地を「100,000,000円」で売るつもりだったが、ついうっかり間違えて、「10,000,000円」と書いた契約書に調印してしまったとき、原則として無効となります。ただし、売主に重大な過失(不注意)がある場合には、売主が自ら無効を主張することはできません。契約の中の金額という「要素」は極めて重要なものであることから、重過失なく間違ってしまった場合には、売主を保護することとされています。この場合、善意の第三者に転売されていたとしても、第三者に対して主張することができます。

自由意志に基づかない詐欺、脅迫

これに対して、自由な意思に基づいたものではない意思表示として、詐欺と脅迫があります。

瑕疵ある意思表示(自由な意思に基づいていない)
詐欺 騙された結果、思い違いで意思表示を行ったとき。

(例)Aが騙されて自分の土地をBへ売却しました。Bは善意のCへ転売しました。その後、Aは詐欺だと主張してBへの意思表示を取消しました。この場合、Cに対して取消しは主張できません。

取消しできる。

ただし、善意の第三者に対して取消すことはできない。

強迫 脅されて(強迫されて)意思表示を行ったとき。

(例)Aは脅されて自分の土地をBへ売却しました。Bは善意のCへ転売しました。その後、Aは強迫だと主張してBへの意思表示を取消しました。この場合、Cが善意であっても、Cに対して取消しを主張することができます

取消しできる。

【図 詐欺で土地を売却したときの法律関係】

詐欺で意思表示を行った場合、詐欺に合った売主にも落ち度があるため、詐欺であったことを知らない(善意の)第三者に対しては対抗できず、意思表示を取消すことはできません。ちなみに、第三者との関係の取扱いは、善意の第三者に対して無効を主張することができる錯誤とは異なっています。

これに対して、強迫されて意思表示を行った場合、強迫された売主に落ち度はないので、強迫されたことを知らない(善意の)第三者に対しても対抗することができ、意思表示を取消すことができます。

結局、売主に落ち度があるか、保護する必要があるかが、取消しできるか否かの判断基準となります。

【図 強迫で土地を売却したときの法律関係】

【図 5種類の意思表示】

著者紹介

岸田 康雄 (きしだ やすお)

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社 代表取締役
公認会計士、税理士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)

一橋大学大学院商学研究科修了(経営学および会計学専攻)。 中央青山監査法人(PwC)にて事業会社、都市銀行、投資信託等の会計監査および財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券、SMBC日興証券、みずほ証券に在籍し、中小企業経営者の相続対策から大企業のM&Aまで幅広い組織再編と事業承継をアドバイスした。 現在、相続税申告を中心とする税理士業務、富裕層に対する相続コンサルティング業務、中小企業経営者に対する事業承継コンサルティング業務を行っている。 日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。中小企業庁「事業承継ガイドライン」改訂小委員会委員。

著書には、「プライベート・バンキングの基本技術」(清文社)「信託&一般社団法人を活用した相続対策ガイド」(中央経済社)「資産タイプ別相続生前対策完全ガイド」(中央経済社)「事業承継・相続における生命保険活用ガイド」(清文社)「税理士・会計事務所のためのM&Aアドバイザリーガイド」(中央経済社)、「証券投資信託の開示実務」(中央経済社)などがある。