相続を乗り越える資産運用(3億円超所有する資産家のための資産運用と資産承継)

ここで、シンプルな資産運用モデルを想定し、理想的な資産運用の方法を検討します。単純化するために、不動産と金融資産はそれぞれ1種類の銘柄しかないという前提を置きましょう。現在(2018年)の不動産市況を前提とすれば、標準的な表面利回り(家賃収入)が5%程度で諸経費を差し引くと、不動産の利回りは概ね2%と考えてることにしましょう。一方、金融商品の利回りは、現在(2018年)の金融市場で取引される大企業の社債(たとえば、ソフトバンクなど)を想定して、概ね4%と考えることにしましょう。つまり、不動産よりも金融商品の利回りのほうが%高いということです。これには異論があるでしょうが、筆者が実務を通じて持っている感覚です。
不動産の利回りと金融商品の利回りには、いずれも所得税等(または法人税等)が課されますが、概ね20%程度であり、利回りの変動によって20%程度の誤差は当然に出るはずで、大勢に影響ないため無視することにしましょう。ただし、相続税は最高税率55%と無視できないため、一律50%という前提を置くこととします。
まず、父親が5億円で金融商品(利回り4%)を購入し、利子・配当の再投資を続けて20年間運用すると、次のグラフのように11億円まで増えます。売却するとしても税引前で11億円の現金が手に入ります。元本が2倍以上になりましたから、一見、とても素晴らしい成果に見えます。

【図 5億円を4%の金融商品で運用する】

次に、父親が5億円で金融商品(利回り4%)を購入し、利子・配当の再投資を続けて20年間運用を行い、相続を迎えるシナリオを検討します。相続人である子供が運用を継続し、さらに20年間運用を行いますと(トータル40年間の運用です。)、次のグラフのように11億円まで増えます。

【図 5億円の金融資産を親子2世代で運用する】

父親の世代で11億円まで増やしたのに、子供の世代では、40年後に12億円となり、プラス1億円しか増えていません。これは、相続の際に相続税として▲5.5億円の支出を伴うからです。40年目に現金化したとすれば、最終的な税引前の利回り(IRR)は、2.2%となりました。相続税という大きな支出がありますので、当初の利回り4%を下回る結果となるのでしょう。

一方、父親が5億円で不動産(利回り2%)を購入し、所得の再投資を続けて20年間運用すると、次のグラフのように7.4億円まで増えます。不動産所得の再投資という仮定は、建物の修繕をひたすら続けて資産価値を落とさないようにするとでも思ってください。この結果、税引前で7.5億円の現金が手に入ります。金融商品よりも利回りが低いため、それほど儲かっていません。

【図 5億円を2%不動産で運用する】

次に、父親が5億円で不動産(利回り2%)を購入し、不動産所得の再投資を続けて20年間運用を行い、相続を迎えるシナリオを検討します。相続人である子供が運用を継続し、さらに20年間運用を行いますと(トータル40年間の運用です。)、次のグラフのように8.3億円まで増えます。ただし、相続時に課税される評価額は、取引価額の半分まで50%圧縮されるものとします。

【図 5億円の不動産を親子二世代で運用する】

父親の世代で7.5億円まで増やしたのに、子供の世代では40年後に8.5億円となり、プラス1億円しか増えていません。これは、相続の際に相続税として▲1.8億円の支出を伴うからです。40年目に現金化したとすれば、最終的な税引前の利回り(IRR)は、1.3%となりました。相続税という大きな支出がありますので、当初の利回り2%を下回る結果となるのでしょう。

それでは、金融商品と不動産を単純に比較してみましょう。結論は、金融商品は資産を大きく増やすことはできるが、相続時に大きく減らしてしまう、不動産は資産を大きく増やすことはできないが、相続時でもあまり減らさないということです。
金融商品を売っている証券営業マンが利回りの高さをアピールしていることは、「資産を増やす」局面しか見ていないということであり、不動産を売っているハウスメーカー営業マンが土地活用による相続対策をアピールしていることは、「資産を減らさない」局面しか見ていないということなのです。

【図 不動産と金融商品の親子二世代の運用の比較】

我が国の相続財産の構成比を見ますと、有価証券(金融商品)の割合はほとんど変化していませんが、土地の割合が低下している一方で、現金預金の割合が上昇しています。増やすための金融商品を所有せず、また、減らさないための不動産を所有していない状況は、世代間を通してみれば、確実にマイナスの運用利回りをもたらします。相続税という制度のある我が国では、現金預金という資産の所有は最悪です。

【図 相続財産の金額の構成比の推移】

出所:国税庁2015年

著者紹介

岸田 康雄 (きしだ やすお)

事業承継コンサルティング株式会社 代表取締役
島津会計税理士法人東京事務所長
公認会計士、税理士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)

一橋大学大学院商学研究科修了(経営学および会計学専攻)。 中央青山監査法人(PwC)にて事業会社、都市銀行、投資信託等の会計監査および財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券、SMBC日興証券、みずほ証券に在籍し、中小企業経営者の相続対策から大企業のM&Aまで幅広い組織再編と事業承継をアドバイスした。 現在、相続税申告を中心とする税理士業務、富裕層に対する相続コンサルティング業務、中小企業経営者に対する事業承継コンサルティング業務を行っている。 日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。中小企業庁「事業承継ガイドライン」改訂小委員会委員。

著書には、「プライベート・バンキングの基本技術」(清文社)「信託&一般社団法人を活用した相続対策ガイド」(中央経済社)「資産タイプ別相続生前対策完全ガイド」(中央経済社)「事業承継・相続における生命保険活用ガイド」(清文社)「税理士・会計事務所のためのM&Aアドバイザリーガイド」(中央経済社)、「証券投資信託の開示実務」(中央経済社)などがある。